全てのアレルギー疾患は、精神的ストレスの影響をうけます。気管支喘息もアトビー性皮膚炎も寺肺疹も精神的ストレスが影響するのです。言い換えると心因性の反応をおこすのです。心因の影響を受けると重症化すると言われております。現代社会は大人も子供もストレス過多の生活を強いられています。その事が文明病と言われるアレルギー疾患の増加になんらかの関係があるのではと推測されます。私の恩師である久徳重盛先生は母親の育て方が過保護になり過ぎたり、放任的になり過ぎたりすると子供たちは精神的に未熟になり集団生活に適応出来なくなってしまいます、その結果ストレスがアレルギー庚患を増強させたり、心身症を引き起こしたりしてしまう事を“母原病”という本で表されました。最近では父親のかかわり方も問題であると、“父原病”を表されました。
成人発症の喘息で、ストレスや過労が原因と言っている人は、男性では73.3%、女性では78.6%であったという報告があります。喘息では大人になるほどストレスの影響が大きいと考えています。男性では仕事上での問題、女性では家庭の問題が大きいようです。
表 喘息の発症とストレス
成人発症群 | 男 | 女 |
ストレス、過労が原因 家庭の問題 仕事の問題 両方の問題 |
73.3% 20.0% 53.3% 0% |
78.6% 57.1% 7.1% 14.2% |
しかし小児でも、乳児でもストレスで重症喘息を引き起こします。そこで私が経験した症例を述べてみましょう。
【症例1】1才前のある乳児の話です。
何度も大発作を起こして受診し、入院を繰り返しておりました。発作はいっも重症で、酸素吸入をしたり、乳児ですがステロイドを使わざるを得ない状態です。アレルギー検査をしても全て陰性で、なにが原因になっているか長い間分かりませんでした。ある時発作が続き外来で点滴を行なっていたのですが、ご主人が長期出張で留守になるため実家に帰りたいと言われました、発作は中発作で処置が必要な状態でしたので取り止めたほうがいい事を伝えました。しかし無理して出掛けられたのですが、1カ月後に帰り受診されたときには全く発作はおさまっていました。その問何の処置もせずに治まったと言うのです。帰ってからも症状は安定しいい状態が続いておりました。そこで何が変ったかを尋ねたところ、添い寝をするようになったとのことでした。1カ月間実家にいるときに添い寝をした、その習慣が帰ってからも添い寝を続ける結果となったとのことです。それ以前はずっとベビーベッドに寝かされていたとの事で、淋しさ愛情飢餓が原因だった事が分かりました。
アトビー性皮膚炎も最近ではストレスが大きく影響しているという報告が多くあります。心理療法を取り入れている専門家もいます。
【症例2】高校生のアトビー性皮膚炎の女の子です。
来院時には顔から頸にかけ真っ赤にはれあがり、参出液がボトポト滴れる状態でした。また前医の投与した白い軟膏が石膏の様にこびりついていました。1週間毎日軟膏をべっとりつけ包帯で覆い処置をしました。その結果湿疹は治まり、しばらくすると来院しなくなりました。そして成人して子供を出産して再び来院してくれました。その時には全くアトビー性皮膚炎は治まっていました。この時に本人が「私は母親とうまくいっていなかった、母親から離れてよくなった。」と言うのです。
我々の社会はストレスの多い社会です。昔のように時間がゆっくり流れているのと異なり、現代はばたばた慌ただしく落ち着かない社会です。家族との触合い、社会との触合いが希薄となり子供たちは精神的に未熟になっている様です。また勉強中心の教育のため学力競争のみが子供たちに強いられ、結果だけが問われ子供たちを評価する物差しになっている様な気がします。子供たちが色々なことを楽しみ、生きる事への喜びを感じる機会が少ない社会と思われます。文明病と言われるアレルギー疾患、その近年どんどん増加している一因に精神的ストレスが大きく関与している可能性は大きい。そこでいまの生活形態でいいのか、心身共に快適な生活になっているのか、子供たちを強くたくましく育て上げる土壌ができているのかを考えてみる必要があると思われます。
20世紀初頭、世界中の多くの孤児院では、乳児の死亡率は非常に高い状態でした。ところがドイツのデュッセルドルフに死亡率の非常に低い孤児院がありました。そこではアンナというおばさんが、一人ずっ抱き上げて一日三回ミルクを飲ませていたのです。多くの孤児院では、赤ちゃんをベッドに並べ寝させた状態で哺乳ビンでお乳を与えていたのです。抱いて話し掛け触ってあげる事、お母さんなら誰しも行なう普通の行為が赤ちゃんを死なせずにすんだのです。この抱いて飲ませる事を「マザーリング」と名付けられました。抱きかかえる事、スキンシップの大切さを教えてくれる事柄です。
気管支喘息という病気は、気管支粘膜にアレルギー性の炎症が起こり気管支上皮を傷害する病気です。言ってみれば、気管支粘膜が剥がれ落ちた状態で傷が出来る、皮膚をかきむしりキズができたのと同じ様な状態となるのです。その為に非常に刺激を受けやすく敏感になるのです。たとえば急に冷たい空気を吸ったり、笑い過ぎたり、喋ったりすると苦しくなります。また少し動いただけでも苦しくなったりもするのです。この気管支のキズは一度出来るとその痕が残ってしまいます。この事をリーモデリングと言いますが、喘息発作が頻繁に起こると、キズの状態が増え、肺機能が除々に低下し元に戻らなくなります。そのため慢性化した喘息はいくら治そうとしても、ある程度楽な状態にコントロールする事は出来ますが完全に治す事は出来ません。キズが出来てからでは手遅れです。喘息が発症した早期にしっかり治療する事が大切です。しかしどうしても発病初期から重症とはだれしも思いません。治療を受けるのもいい加減になりがちです。そうしているうちに除々に慢性化してしまうのです。最初が肝心です。最初に喘息症状が出た時にしっかり治しきる事、喘息症状を完全に消し切る事が大切です。また症状が無くなってからも暫くのあいだ(最低3カ月)は発作が起きないようにコントロールする事が大切です。喘息の原因を取り除くと同時にしっかり薬を飲み予防する事です。また喘息発作ではないが、夜間強く咳き込む、運動すると咳き込む、喋ると咳が出る、と言った症状も1つの喘息準備状態と思われます。この様な場合も、しっかり治療する必要があります。
今話題になっている糖尿病、糖尿病予備軍は、食での満足感がないためストレスドカ食いや大酒の誘因となり、いずれ糖尿病のコントロールを乱したり、予備軍をますます増やしてしまうのです。そこで現代人に満足感を与え積極的にすすめられる食事法の1つとして地中海とくに南イタリア料理を紹介してみたいと思います。地中海沿岸地域とくに南イタリアの料理は糖尿病での食事目標を受け入れやすい内容をもっています。またこの地域では糖尿病による死亡率が他の欧米諸国と比べ著しく低いことが調査からも明らかにされています。素材の面では和食と類似点が多く、また日本人の口に合うのです。
南イタリア料理の特徴を糖尿病にすすめられる観点からみてみると
@パスタに使われる小麦粉は食後の高血糖を抑えるのに有効的
Aオレイン酸、リノレン酸を多く占めるオリーブオイルを使用している
B魚の種類が豊富で背の青い魚が多くエイコサペンタエン酸をとりや
すい
C豆類、きのこ類の料理が多く食物繊維がとれる
D緑黄色野菜を多く使用しβ−カロチンをはじめ抗酸化物質、食物
繊維が十分とれる
調理面からは香りの高いハーブを巧みに使うので塩分が無理なくひかえられ香りの面で満足感を与える。このように今流行しているイタリア料理は素材を生かしたシンプルな料理法で調理に手間が少なく多忙な現代人にも受け入れやすい料理です。また高脂血症に良いとして流行しているワインとくに赤ワインとの相性を楽しみながら時間をかけてゆっくりと食べる食習慣はアルコール飲料の本来あるべき楽しみ方という点でもおおすすめです。異文化と接触する機会が日常茶飯事となった現代、さらに食材の流通がここまで発達した時代に伝統的和食に固執することなく食の好みを考え、上手にコントロールし予防をして行きたいですね。