赤ちゃんに食物アレルギーが増加している事は、よくご存じの事と思います。アレルギー疾患の赤ちゃんの60%ほどは卵白アレルギーですし、40%ほどはミルク(牛乳)アレルギーです。 さて、赤ちゃんはいっ頃からアレルギー体質を獲得してしまうのでしょう。何故食物アレルギーを作りやすいのでしょう。
卵白などの食物アレルギーは生後4〜7カ月にはすでにかなり高い保有率を占めて居ります。なかには、生後直後より食物アレルギーでアトビー性皮膚炎が起きている事があります。赤ちゃんの肌は柔らかくツルツルして気持ちのいいものですが、可哀相にもガサガサの肌で生まれて来る事があります。生まれる前よりアレルギー体質が出来上がってしまっているのです。Millerは11週の胎児の肺や肝臓の組織にアレルギー抗体が存在した事を証明しております。アレルギー抗体は胎盤を通過しませんので胎児自身が産生したものと考えられます。胎児は能動的なアレルギー抗体産生能を有しているので、お母さんが摂取した抗原が胎盤を通過すると、胎児はそれに対してアレルギー抗体を作ってしまうのです。
Michelは牛乳に対するアレルギー抗体を持っていないお母さんから生まれた赤ちゃんの臍帯血中に牛乳に対するアレルギー抗体を証明しました。(先天感作と言います)
馬場実先生は、第1子がアレルギー体質の子の場合、第2子の妊娠中特に妊娠8カ月以降に卵を控えると卵アレルギーになる率が減ると報告しております。この事はまだ確定した事実ではありません。しかし妊娠中に多量に牛乳を取りすぎると、牛乳アレルギーの赤ちゃんが生まれてしまうという事が日常診療でよく経験する事です。食物アレルギーの成立に妊娠中の食生活が影響するのは確かな事実のようです。
出生後、赤ちゃんは当然お乳を飲み、離乳食を食べるわけです。しかし赤ちゃんは消化力が弱いため食物をうまく消化吸収する事ができません。早期に高蛋白質の物を食べるとアミノ酸まで分解出来ず、未消化な状態で蛋白質のまま吸収されてしまう事になってしまいます。蛋白質が直接体内に入るとその物質に対しアレルギー抗体を作ってしまうのです。特に卵は蛋白質の固まりです。卵にはオボアルブミン、オボムコイド、リゾチームなどの蛋白質があります。これらの蛋白質に対してアレルギーを起こすのです。アレルギー素因のある赤ちゃんに早い時期に卵を与えてしまうとアレルギーを作ってしまいます。卵の蛋白質は母乳中にも出やすく、お母さんが卵を食べるとアレルギーを起こしてしまいます。牛乳蚤白も同様です。また消化力のみならず免疫力も弱い為、腸粘膜は感染を受けやすく、腸粘膜がただれやすいのです。そのため一層消化力を落としてしまうのです。免疫力が弱いのも食物アレルギーを作りやすい一因なのです。卵や牛乳にアレルギーが起こると腸粘膜にアレルギー炎症が起こります。アレルギー炎症が頻繁に起こると、次から次へと色々な食物にもアレルギーをつくる様になります。また食物だけではなくダニやほこりにもアレルギーを作るようになってしまいます。この事をアレルギーマーチと言っています。
さてどうしたら食物アレルギーを予防出来るのでしょう。残念ながら現時点では決定的な手段はまだ確立されていないのが現状です。しかし卵や牛乳のアレルギーを作らない事がアレルギー疾患の予防になる事はあまり間違っていないように思います。アレルギー体質家系の方は、妊娠中から注意する必要があります。妊娠中、卵や牛乳をあまり摂取しない、特に妊娠8カ月以降は極力摂取しない。牛乳に関してはアレルギー予防用ミルク(E母さん、のびやか)を用いるのも1つの手段と思われます。また妊娠中栄養バランスのいい食生活、煽りのない食生活を心牲トける必要があります。母乳投与中もお母さんは卵や牛乳を極力摂取しない方がいいようです。離乳食も最低生後8カ月まで(出来るなら1才まで)は卵や牛乳を与えない方がいいようです。また離乳食のすすめ方も出来るだけゆっくりの方がいいように思います。アレルギー増強因子として植物油脂が問題になります。植物油脂に含まれるリノール酸からアレルギー反応を強く起こさせるロイコトリエンが作られます。この事より妊娠中のお母さんや赤ちゃんは出来るかぎり植物油脂を取らないよう心掛けた方がいい様に思われます。まだまだ色々模索している段階ですがアレルギー疾患が増加し、文明病と言われている事を考えると、お母さんや赤ちゃんの食生活にどこか問題があるように思われます。
生まれたてのひよこは初めて見た動く物を親鳥と認識しますが、それでは赤ちゃんはどこでお母さんを認識するのでしょう。ただ産むだけ、お乳を与えるだけではお母さんとは感じないでしょう。赤ちゃんは1ケ月になると目が見える様になります。回りをキョロキョロしてニソニソほほ笑む様になります。回りの景色を認識できるようになるのです。この時にお母さんが目線を合わせて見つめてあげると赤ちゃんはとても嬉しくなり気持ちが落ちつくのです。お母さんが慌ただしく落ち着かない生活をしていると赤ちゃんを見つめてあげる余裕がなくなってしまいます。その結果、赤ちゃんは精神的に不安定になることもあるのです。生後2カ月ほどになると赤ちゃんはあ一あ−、う−う−と声を出すようになります。回りの人に声を出して信号を発信しているのです。私はここにいるよ、相手をしてよと呼び掛けているのかもしれません。赤ちゃんがあ−あ−、う−う一言った時に、お母さんも音の変化をつけて声を掛けてあげると、赤ちゃんは大変喜びます。赤ちゃんにも感情があります。嬉しい時、悲しい時、淋しい時、何かをしてほしいと思う時、その時々の気持ちをお母さんは受けとめてあげなければいけません。
犬や猫が生まれた直後に歩きだし、生後数カ月で親離れをするのに対し、われわれ人間は歩ける様になるのに1年、親離れをするのに15〜16年掛かるのです。言い換えれば未熟な状態で生まれ、生後色々な体験を通して成長し大人になるのです。『三つ子の魂百まで』という諺がありますが、これは三歳までの体験が一生を支配するという事ですが、特に一歳までのお母さんの接し方が親子の絆を築き上げるのに重要と考えています。一歳まではお乳を飲み育っのです。お母さんがお乳を与えられなければ赤ちゃんは死んでしまいます。今は人工栄養ができ誰かがミルクを与えてくれさえすればそれなりに育ちますが、昔を考えるとお母さんの母乳が出ないと赤ちゃんは育たなかったのです。赤ちゃんにとって生を与えるのはお母さんしかいないのです。このつながりが究極的な親子の絆かも知れません。しかしお乳を与えるだけでは子供は育ちません。一歳までの間にお乳や食べ物を与えるだけで、はとんど相手をしないと子供は自閉傾向になってしまいます。この間のお母さんのかかわり方が問題になります。
赤ちゃんは喋りませんが、絶えずお母さんに信号を送っています。それをうまくキャッチし受けとめて上げなければなりません。お腹が空いた、だっこして欲しい、遊んで欲しい、おむっが汚れた・・・等々とそのつどうまく関わってあげなければなりません。赤ちゃんは『お母さんは困った時には頼りになるし、私を楽しくさせてくれるいい人』と感じ、お母さんは『子供をみて可愛くてたまらない』と感じ合う親子関係が当然な事ですが大切なのです。しかし、子育ては手がかかり面倒なものです。毎日が慌ただしすぎるとっい子供がうっとおしく感じてしまう。また、生活が豊かになればなるはど、人間はラクなほうがいいと思うものですし、親自身が楽しみたいと思うものです。そんな事から面倒な子育てをいやがる人も増えて来ている様な気がします。 しかし親子の絆は子育ての基礎です。親子の絆が出来ていなければ、いくらしっかりした躾をしようとしてもなかなか身につけさせる事が出来ません。好きなお母さんの言うことだから、子供は言うことを利くのです。 お母さん、お父さんは全責任を持って育て上げるという心構えが必要なのではないでしょうか。おじいちゃんやおばあちゃんに育児を頼りすぎるのは問題です。お母さんよりおばあちゃんのほうがいいと子供が感じるようでは困る様な気がします。何時の日かはおじいちゃんやおばあちゃんでは刃がたたなくなりますし、責任がおえなくなります。神戸のA君の様に信頼していたおばあちゃんが亡くなったら狂ってしまうようでは困ります。 最近、よく言われる『親子の断絶』という問題も、赤ちゃんの頃の親子の絆がうまく構築されなかった結果の様な気がします。